平成14年度 第9回 海外視察レポート
EU諸国の持続可能都市戦略調査概要報告

団 長  荒川 俊介

はじめに
本協会が毎年実施している海外調査の14年度調査は、「EU諸国における持続可能都市戦略を探る」をテーマに去る9月29日から12日間実施され、その間にアーヘン、アムステルダム、ブリュッセル、ロンドンのヨーロッパ4都市を訪れ、7機関でヒアリングを行い、また幾つかの地区を視察した。以下、調査の概要を紹介し所感を述べさせていただくこととしたい。
なお現在、別途報告書を作成中であり、詳細は後日この報告書をご覧いただければ幸いである。
今回調査の背景・主眼点
今回調査の背景は、地球規模での地域間競争の激化に対応して、また様々な社会問題や環境問題等に対応しながら、将来にわたってより力強く発展する「新欧州圏」を創出すべく過去十年来様々な政策を実施しプロジェクトを展開しているEU委員会と参加主要国の動きを検証し、我が国における「都市再生」のありようを考える素材を得ることにあった。
EUの「持続可能性(サステイナビリティ)」にかかる視点と戦略
EU委員会は“環境政策の一環として”かねてよりサステイナブルシティ政策を追求してきた。そして現在、環境問題やエネルギー問題、雇用・移民・社会的不平等などの社会問題等の解決とバランスをとりながら社会・経済を発展させ、将来にわたって国際的な地位を維持することが「サステイナビリティ」の本音の視点になっているように思われる。
そしてこれを推進するために、EU委員会が様々なガイドラインを示し、「アーバン・パイロット事業」等を通じて各国や自治体等を支援し政策・事業等を実施することが「都市戦略」の実体であり、それは、国の枠を越えた地域・都市レベルの連携プレイ、総力戦であるように見受けられた。
空間戦略およびコンパクトシティ、環境計画との関係
EU諸国においては、サステイナブルな都市戦略を展開するにあたって、「空間開発」が重要政策テーマになっている。「空間開発」は、「バランスがとれた空間構造を通じてEUのサステイナブルな開発を押し進める」ものであり、1994年に次の3つの政策指針が示された。
 ・バランスがとれた多核的な都市システムと都市・田園(ルーラル)の新たな関係の構築。
 ・インフラと地域へのアクセスの均等性(パリティ)の担保。
 ・自然および文化資産の持続可能な保全・開発とマネージメント。
こうした見取りのなかで、「コンパクトシティ」は「サステイナブルな都市の空間形態」「空間計画の目標像」として位置づけられ、EUの空間政策の根幹的な目標になっている。
今回の訪問を通じて、こうした政策ガイドラインが各国・都市の政策に色濃く反映されていることを改めて強く印象づけられたところである。
オランダにおいては、“コンパクトシティの推進”が国土計画や全国環境政策計画のなかで明記され、これをふまえて複合開発、環境統合用途地域制、新たな環境計画手続きなど、環境計画と空間計画の統合が進められている。英国の「計画政策指針」では、移動を最小にする開発パターンの創出、ミックスドユースの推進、優れた空間デザインの推進といった持続可能な空間計画の原則の具体化が図られている。あるいはロンドン市の「空間開発戦略」では、戦略的な土地活用と空間問題への対応を主眼に、たとえば、オフィス空間の安定供給、ロンドン中心部の強化、複合開発をキーにした柔軟な土地活用、交通再編、住宅の複合的な利用・所有の推進、環境保全、文化的生活環境の拡充等を打ち出している。
また今回の訪問先で、関連プロジェクトの具体的な状況を知ることができた。
たとえば、オランダでは、住宅供給エリアを都市中心部に限定して住宅を拡充し、産業立地重点エリアを指定するなど、土地利用規制面から強く環境保全とリンクさせている。あるいは都市間交通の強化やパー
ク・アンド・ライドを推進している状況が見られた。
ドイツのアーヘンの例はやや異質ではあるが、郊外への人口流出(特に高齢者)が多く、小規模なドイツの都市ではあるが中心部の人口を維持・回復しコンパクトな都市形態を維持することが重要な政策になっていることを知った。ここでは、歴史文化資産の保全、公有地の廉価な提供、工場等の土地利用転換、古い建材の再利用などと組み合わせながら都心部での住宅整備が行われている。また歴史的な道を保全しがら古くからの都市構造を継承し歩行者路を拡充する「逆建設型道路整備」を展開している。
こうした方法は、いかにもドイツ流であって、歴史文化資産の保全・継承・活用と併せ技で街づくりや都市再生を進める好例だといえよう。
工場跡地での社会住宅供給(ドイツ、アーヘン)
逆建設道路整備による豊かな生活空間(同)
幾つかのキーワードについて
(1)都市ネットワークの強化
EUの持続可能都市戦略の一つに、超広域スケールでの新たな地域構造や都市関係の構築がある。この戦略は、特に、各地域固有の産業を育成・強化し相互に結ぶという経済活性化をキーにして展開されている実態を知った。こうした戦略がコンパクトシティおよび環境政策と呼応し、空間開発の一環としてTENプロジェクトが進められている。それは、EU圏域で交通・情報通信・エネルギー供給等のインフラネットワークを構築するものであり、同時に広域計画のプライオリティを明確にする手だてでもある。
交通面では、空港の再配置と併せて、効果的に機能する持続可能な交通システムの再編強化、特に主要都市間の鉄道網の強化が重要なプロジェクトになっている。こうしたプロジェクトは、たとえばオランダでは「デルタメトロポール」プロジェクトとして実施中であり、ロンドンでも国際鉄道ターミナルの市内中心部への再配置や市内を横断する鉄道の整備といったかたちで展開されている。

(2)環境問題への対応
今回調査で必ずしも全容を把握したわけではないが、それぞれの国・都市・プロジェクトごとに様々な視点・方法で取り組みが進められており、また課題も抱えていることがうかがい知れた。
たとえば、オランダでは、産業廃棄物等処理の権利を地域間で売買する制度が導入されているが、この方式が必ずしも適切でないという評価も見られた。あるいはアムステルダムのエコロジカル住宅地開発地区でを視察したが、維持管理上の課題もかいま見られた。またロンドン計画においては「環境」をキーワードとし、大気汚染に対して道路・交通関係を中心に戦略を構築し、ローエミッションを図る地区を指定するなど多面的な展開が見られたが、なお試行過程にあるものも少なくないように思われる。

(3)規制緩和、民間投資誘導
伝統的に土地利用規制、建築規制が厳しいヨーロッパにおいても、近年、規制緩和とセットで民間投資を誘導する動きが活発になり手法も多様化しているように思われた。
国土の保全を重視し規制が厳しいオランダでも、土地利用計画の変更や規制緩和の圧力の高まりに対応して、より能動的に計画を周知し、助言し、協議等を通じて望ましい土地利用を誘導しながら柔軟に規制緩和する動きが強まっている。今回調査では、たとえば、市場とのミスマッチの是正の観点から創造的土地利用、効率的土地利用を重視し、従来都心部では規制されていた商業施設の立地を許可したデンハーグでの事例などを知った。

こうした動きは、アムステルダム東港開発の様子に端的に見られる。初期開発地区では、市が計画策定から事業実施まで全面的に関与してきた。しかし後発開発地区では、市は公の立場からプロジェクトのビジョンを誘導しプロセスをコントロールするコーディネーターとしての役割にシフトしている。また、定期借地方式によって市が主導性を担保してきたが、これについても年限を多様化するなど、民間のニーズに柔軟に対応する動きが強まっている。あるいは、英国政府は、「アーバンルネッサンス」政策の中で老朽地区や交通不便地区などでの不動産取引を誘導するために汚染土地の開発にかかる税の猶予、商業と住宅の複合開発に対する百%融資、既存住宅のリフォームや住宅へのコンバージョンに対する付加価値税の減免等を行っている。また地方については、諸主体のパートナーシップの支援と効果的な投資誘導を目的として、合理的な合意に対して開発者、投資家、土地所有者・借地権者等への税制優遇措置等を講じている。

(4)地域の主体性の発揮、住民参加
EUの地域政策、特にアーバンパイロット事業の推進にあたっては、「コミュニティ・イニティアティブ」が重要なキーになっている。これはそれぞれの地域・自治体の主体性・責任によってプロジェクトを進めるという考えであり、住民参画を含めて地元諸主体のパートナーシップを構築・強化することを重視し、EU 委員会は自治体に直接支援・補助をしたり、各国政府も様々な支援・優遇措置を講じている。
たとえばブリュッセル市が進めている住宅地区更新事業の例では、EU委員会の支援のもと、住民参加に基づく「ネイバーフッド契約」を結んだうえで、高齢者支援、土地の有効利用・不動産経営の支援、市による土地の買い取りと廉価再譲渡、住宅の買い取り・長期リース、若年者に対する街づくり教育等が行われている状況をつぶさに知ることができた。

アムステルダム東港再開発
公共住宅が多い弟1期地区
民間住宅が増えた第3期地区
我が国でのサステイナブルな都市戦略への示唆
現在、ウェブサイト等を通じて様々な情報が入手可能であり、EU諸国の都市戦略についてもすでに相当量の情報が得られている。今回調査は、こうした知見を持って臨みながら、しかし現地で生の話を聞き現地の状況を肌で感じることに大きな意味があった。
こうした体感を通じて、これからの我が国の都市戦略に対して多くの示唆が得られたように思われる。以下私なりの所感を述べたい。
第一は、政策・計画面で、確固たる哲学・理念・目標とこれに基づく将来の都市空間・生活の明確なビジョンを持ち、それを達成するための実効的な戦略とプログラム、ベンチマークスを社会的に共有することの重要性である。
第二は、各主体の責任と権限を格段に明確にし、計画・事業の推進と対応させることの必要性である。そして、これと関係づけて諸主体パートナーシップの実効的な仕組みを構築し、コミュニティ・イニシャティブといったより広範で根幹的な枠組みのもと、現在過渡的状況にある地方分権や住民参加の権限と責任を確立し、都市戦略を主体的に担う真の母体を確立することが求められているように思われる。
第三は、諸領域の統合である。空間計画と環境計画や経済・産業計画を施策・計画・事業面で具体的に関係づけ、これに対応する複合的な施策を拡充しながらプロジェクト展開する必要性を痛感する。
第四に、以上を進めるために、既往の制度・システムを大きく改変する必要がある。EU諸国でも現在様々に試行中であるように見受けられたが、たとえば複雑な施策・計画体系を簡素化し、トップダウン型からコラボレーション型へ転換し、そのなかで政策と地域・住民の主体的な行動を両輪とする新たなシステムを構築することが大きな課題であるように思われる。
おわりに
今回の調査は天候にも恵まれ事故もなく無事日程を終えた。これはひとえに団員の方々の協力の賜であり、改めて謝意を表する次第である。また、厳しい状況のなかで本調査を主催された理事会および関係各位の熱意とご努力、参加いただいた各社のご尽力に敬意を表しお礼を申し上げる次第です。
 一方、事前に送付した質問状が届いていなかった訪問先もあり、団員の方々に多大なご迷惑をかけまた協会に対しても責任を全うできなかったことが痛恨の極みであり、深くお詫び申し上げる次第です。かかる現地視察調査の意義に照らして、場合によっては現在の方式の改善も含めてご検討いただき、今後とも何らかのかたちで継続いただければ誠に幸いです。